2月7日
私の「麹町アジャンタ」時代からの師匠のひとりで、いまだ頭の上がらない北インド料理の名人モハメド・フセインさんが新しいプロジェクトをスタートさせるというので、オープニングイベントの予約制ディナーに伺ってみた。
大田区池上は、さすがにちょっと遠い。私は大田区西六郷の生まれだが、同じ大田区でもこのあたりはどちらかというと閑静な住宅街、六郷~雑色駅界隈の下町めいたノリとは違う。もちろん、わが西荻窪をはじめとした中央線沿線とは異なる雰囲気で、最近出不精な私には、アウェイ感ヒシヒシ。
それでも店内に入ると活気があふれ、私の知る人たちが忙しく立ち働いていて、一安心。ぐるりと見回せば、料理教室の生徒はじめ、なじみの顔も少なくない。「どうも、どうも」とあいさつなどしつつ、席につき、後は厨房とホールの連携に身を任せる。
インド、パキスタンなど、南アジアの豊かな生活文化を広める一般社団法人「マシャール Mashal」が、新たなフセインさんの居場所。仕事のパートナーはインド亜大陸の女性をテーマにした写真家でエッセイストの柴原アリ三貴子さん。
まずは生野菜のサラダでスタート。オレンジ色のドレッシングが、大昔、私を含めた日本人スタッフが入れ替わり自作していた麹町「アジャンタ AJANTA」のそれに似ていて、しばしノスタルジックな想いに浸る。
次にスープ。ダールのスープだ。ダールカレーのように辛味は加えない。スープだからだ。クミン・シードとギーの風味。もしかしたら生クリームも若干入っているかも。たしか30年以上前のクリスマス、当時の「アジャンタ AJANTA」の特別コースディナーで供された。そのときもフセインさんがつくった。それを私は横からチラ見して、脳裏にレシピをメモった。

この日間借りした店は、もともとインド料理店ではないのでタンドゥール窯はない。しかし、どう見ても、次に出てきた皿盛りのバーベキューはタンドゥール料理にしか見えなかった
スバイシーなつくねというべきかシークカバーブ、いつもながら味つけ、カッティングとも申し分ないタンドゥーリ・チキン、生クリーム、チーズなどのバランスが絶妙なマライ・ティッカ、プリプリのシュリンプ・ティッカ、逆にソフトだが崩れず美味なフィッシュ・ティッカ。どれもさすがの安定感で、ブレがない。素材の持ち味をスパイスやヨーグルトなどが見事に引き出している。さりげなく添えられたミント・チャトニの爽快な風味も、いいアクセント。いっしょに頼んだヒューガルテンののど越しも最高だ。

続いてメイン。マトンのビリヤニ、その横にはチャパティ。カレーは4種類の中からマトン・コルマにベジタブルを選択(除外したのはチキン・キーマ・マタルとダール。どれも食べたかった)。
パンとご飯、両方出されたら、パンから食べる。
インド亜大陸でよく見かける風景。
私もアツアツのチャパティをちぎってマトン・コルマに浸し、口に運ぶ。
おっと、ここはオールドデリーのカリームホテルではないのか。
思わずそんな錯覚に陥りそうになった。
フセインさんもかつて在籍し、凄腕を振るっていた、オールドデリーが世界に誇るムガル料理の名店、カリーム・ホテル。マトンとチキンのコルマは同店の看板メニューだが、カリーム以外であの味に出会えるとは感激だ。
さらにチャパティをちぎりつつ、コルマといっしょに頬張る。噛みしめるたびに広がる滋養あふれる香り。と、今度は「カリームに似ているが、違う。もっと軽くて、胃にもたれない」という感想が頭の中で連呼されはじめた。

フセインさんのカレーというと、イスラーム料理人らしく「マトンやチキンのカレー」「ビーフのナハリ」など肉カレーに眼が行く。それはそうだ。実際、それらはウマい、バツグンに。
しかし、私は知っている。フセインさんのつくる野菜カレーが、これまたバツグンであることを。
で、この日もマトン・コルマとともにベジタブルカレーをお願いしたら、これが大当たり。
かつて、「アジャンタ AJANT」でもVIPの特別コースなどでフセインさんが腕を振るう際、よく登場した「ムガル式グレービー」(ヨーグルト、ナッツやポピー・シードのペースト、生クリーム、牛乳など使用したカレーソース。辛くはない)の応用だろう。ジャガイモをメインとした野菜類の煮崩し方、グレービーの濃度と具との量的バランス、味の濃さ。すべて勉強になる。

カレーのおいしさにつられて、気がつけば、チャパティを計6枚たいらげていた。これは、この夜の最高枚数タイ記録だそうだ。
実はチャパティとカレーをいただきつつ、マトンのビリヤニも食べていた。パラパラのバスマティ・ライスに肉やスパイスの味が浸みて、やはり最高にウマい。ゴロンゴロンと入った骨つきマトンも極力きれいに食べる。骨に身が残るのがもったいないし、何しろおいしいからだ。 つけ合わせのライタも揚げ玉入りの「ブーンディ・ライタ」。手が込んでいる。

この後も、サフラン入りキール(インドのライスプディングのようなスイーツ)やチャイをいただき、満腹そして満足。
この日、フセインさんは実力のごく一部だけを披露したにすぎない。しかし、出てくる料理はどれも超一流だった。さすがである。本場の名人はスゴい。
フセインさんは3月以降、忙しくなるはず。
facebookに「マシャール」のページがあるので、そこで活動はチェックするといいだろう。
《このブログを書いているときのBGM》
私の「麹町アジャンタ」時代からの師匠のひとりで、いまだ頭の上がらない北インド料理の名人モハメド・フセインさんが新しいプロジェクトをスタートさせるというので、オープニングイベントの予約制ディナーに伺ってみた。
大田区池上は、さすがにちょっと遠い。私は大田区西六郷の生まれだが、同じ大田区でもこのあたりはどちらかというと閑静な住宅街、六郷~雑色駅界隈の下町めいたノリとは違う。もちろん、わが西荻窪をはじめとした中央線沿線とは異なる雰囲気で、最近出不精な私には、アウェイ感ヒシヒシ。
それでも店内に入ると活気があふれ、私の知る人たちが忙しく立ち働いていて、一安心。ぐるりと見回せば、料理教室の生徒はじめ、なじみの顔も少なくない。「どうも、どうも」とあいさつなどしつつ、席につき、後は厨房とホールの連携に身を任せる。
インド、パキスタンなど、南アジアの豊かな生活文化を広める一般社団法人「マシャール Mashal」が、新たなフセインさんの居場所。仕事のパートナーはインド亜大陸の女性をテーマにした写真家でエッセイストの柴原アリ三貴子さん。
まずは生野菜のサラダでスタート。オレンジ色のドレッシングが、大昔、私を含めた日本人スタッフが入れ替わり自作していた麹町「アジャンタ AJANTA」のそれに似ていて、しばしノスタルジックな想いに浸る。
次にスープ。ダールのスープだ。ダールカレーのように辛味は加えない。スープだからだ。クミン・シードとギーの風味。もしかしたら生クリームも若干入っているかも。たしか30年以上前のクリスマス、当時の「アジャンタ AJANTA」の特別コースディナーで供された。そのときもフセインさんがつくった。それを私は横からチラ見して、脳裏にレシピをメモった。

この日間借りした店は、もともとインド料理店ではないのでタンドゥール窯はない。しかし、どう見ても、次に出てきた皿盛りのバーベキューはタンドゥール料理にしか見えなかった
スバイシーなつくねというべきかシークカバーブ、いつもながら味つけ、カッティングとも申し分ないタンドゥーリ・チキン、生クリーム、チーズなどのバランスが絶妙なマライ・ティッカ、プリプリのシュリンプ・ティッカ、逆にソフトだが崩れず美味なフィッシュ・ティッカ。どれもさすがの安定感で、ブレがない。素材の持ち味をスパイスやヨーグルトなどが見事に引き出している。さりげなく添えられたミント・チャトニの爽快な風味も、いいアクセント。いっしょに頼んだヒューガルテンののど越しも最高だ。

続いてメイン。マトンのビリヤニ、その横にはチャパティ。カレーは4種類の中からマトン・コルマにベジタブルを選択(除外したのはチキン・キーマ・マタルとダール。どれも食べたかった)。
パンとご飯、両方出されたら、パンから食べる。
インド亜大陸でよく見かける風景。
私もアツアツのチャパティをちぎってマトン・コルマに浸し、口に運ぶ。
おっと、ここはオールドデリーのカリームホテルではないのか。
思わずそんな錯覚に陥りそうになった。
フセインさんもかつて在籍し、凄腕を振るっていた、オールドデリーが世界に誇るムガル料理の名店、カリーム・ホテル。マトンとチキンのコルマは同店の看板メニューだが、カリーム以外であの味に出会えるとは感激だ。
さらにチャパティをちぎりつつ、コルマといっしょに頬張る。噛みしめるたびに広がる滋養あふれる香り。と、今度は「カリームに似ているが、違う。もっと軽くて、胃にもたれない」という感想が頭の中で連呼されはじめた。

フセインさんのカレーというと、イスラーム料理人らしく「マトンやチキンのカレー」「ビーフのナハリ」など肉カレーに眼が行く。それはそうだ。実際、それらはウマい、バツグンに。
しかし、私は知っている。フセインさんのつくる野菜カレーが、これまたバツグンであることを。
で、この日もマトン・コルマとともにベジタブルカレーをお願いしたら、これが大当たり。
かつて、「アジャンタ AJANT」でもVIPの特別コースなどでフセインさんが腕を振るう際、よく登場した「ムガル式グレービー」(ヨーグルト、ナッツやポピー・シードのペースト、生クリーム、牛乳など使用したカレーソース。辛くはない)の応用だろう。ジャガイモをメインとした野菜類の煮崩し方、グレービーの濃度と具との量的バランス、味の濃さ。すべて勉強になる。

カレーのおいしさにつられて、気がつけば、チャパティを計6枚たいらげていた。これは、この夜の最高枚数タイ記録だそうだ。
実はチャパティとカレーをいただきつつ、マトンのビリヤニも食べていた。パラパラのバスマティ・ライスに肉やスパイスの味が浸みて、やはり最高にウマい。ゴロンゴロンと入った骨つきマトンも極力きれいに食べる。骨に身が残るのがもったいないし、何しろおいしいからだ。 つけ合わせのライタも揚げ玉入りの「ブーンディ・ライタ」。手が込んでいる。

この後も、サフラン入りキール(インドのライスプディングのようなスイーツ)やチャイをいただき、満腹そして満足。
この日、フセインさんは実力のごく一部だけを披露したにすぎない。しかし、出てくる料理はどれも超一流だった。さすがである。本場の名人はスゴい。
フセインさんは3月以降、忙しくなるはず。
facebookに「マシャール」のページがあるので、そこで活動はチェックするといいだろう。
《このブログを書いているときのBGM》
Black Sabbath『Vol.4』
R&B系をはじめとした、多くのミュージシャンがブラック・サバスをカバーしていることに最近気づいた。1つずつの楽曲がそれぞれきちっとまとまっているからか。ちなみにギターのトニー・アイオミは私と同じ2月19日生まれ。
R&B系をはじめとした、多くのミュージシャンがブラック・サバスをカバーしていることに最近気づいた。1つずつの楽曲がそれぞれきちっとまとまっているからか。ちなみにギターのトニー・アイオミは私と同じ2月19日生まれ。
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