カレー&スパイス伝道師ブログ 2

インド&スパイス料理家、渡辺玲のブログ。2019年9月4日、ヤフーブログから移行。

2008年03月

3月某日

 砂肝のマサラ、ミーン・コロンブとともにオーダーしたのが、ホウレンソウの入ったマトンカレー。
 現地で「サーグ・マトン」「サーグ・ゴーシュト」などといわれるカレーだ。

 サーグは青菜、ゴーシュトはマトンのこと。特に青菜がホウレンソウを指す場合は「パラク・マトン」などとも呼ばれる。

 青菜がホウレンソウを指さない場合などあるのか、と怪訝に思う方もいるだろう。

 これがあるのだ。例えば、北インドのパンジャーブ地方には、カラシ菜を使って、ホウレンソウのカレーとまったく同じものが作られる。これは「サルソン・カ・サーグ」であって、パラクとは呼ばない。

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 これがアジャンタ式のラム肉とホウレンソウのカレー。上にのっているのはショウガの千切りだ。
 肉は見えないが、軟らかく煮込まれた骨無しマトンがゴロゴロと入っている。

 奥に見える白いのはヨーグルトとご飯をミックスした「カード・ライス(ダヒ・ライス)」。

 左にチラリと見えるのは、全粒粉の生地をタンドゥールで焼いた「タンドゥーリ・ローティ」。
 私はナーンよりもローティの方が好きだし、たいていのインド人シェフもまかないを食べるときはローティにする。

 ホウレンソウのピューレを使ったカレーを作るときのポイントのひとつは、できるだけ水気を少なく仕上げること。
 その点で、このサーグ・マトンは十分素晴らしい出来映えといえる。

 色味については、鮮やかなグリーン色より、少し色があせるまで煮込んだ方がおいしい。
 この店のは、色はきれいで、しかも味はノリノリ。

 私が修業中の20年前は、ホウレンソウとマトン、あるいはホウレンソウとチキンのカレーはメニューに無かった。
 ホウレンソウとカッテージ・チーズの「パラク・パニール」があるだけ。それも普通のインド料理店のとは少々レシピが異なっていた。

 パラク・パニールとサーグ・マトンはそれぞれ仕込み方が違うので、でき上がりもかなり異なるはず。
 
 ともかく、このホウレンソウとマトンのカレー、味わいが濃厚でおいしい。おすすめだ。

《このブログを書いているときのBGM》
チャンプルーDKI『ファンキー・ダンドゥット』(1991年)。冒頭からワイルド・チェリーの「PLAY THAT FUNKY MUSIC」、アニタ・ワードの「RING MY BELL」のカバーが秀逸。久保田麻琴氏のプロデュースが冴え渡った日本制作のエスノ・ポップ名盤。

3月某日

 本場インド、とりわけ南インドでおいしいカレーのひとつに魚カレーが挙げられる。

 たいていは酸味を演出するタマリンド、コクム(ダイエットに使われるガルシニア)、青マンゴー、あるいは甘味とコクを醸し出すココナッツなどを組み合わせることにより、日本人にはなかなか思いつかないおいしいカレーに仕上げてくれる。

 ここアジャンタもそうした趣向をうまく取り入れている。

 何しろメニューの中に「魚のカレー」が2種類、さらには別に「シーフードカレー」があるのは、日本のインドレストランでもここぐらいではなかろうか。
 それくらい、魚のカレーには気合が入っているのである。

 通常のフィッシュ・カレーはトマトとココナッツ・ミルクでマイルドに白身魚を煮込んである(私の修業時代はタラを使っていた)。以前はいっしょにナスとピーマンも煮込んでいたが、今はどうだろう。

 もうひとつの魚カレーは「ミーン・コロンブ」と呼ばれるもの。こちらの方がより本場っぽい。使われるスパイスにしても、粒のフェンネル・シードとフェヌグリークが利いて、よりスパイシーな味わいだ。

 今回の食事会では、このミーン・コロンブをオーダーしてみた。

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 コロンブというのは南インド独特の酸味と甘みのある汁気タップリのカレーのこと。コザンブ、クリャンブなどと同義だ。ミーンは魚という意味。
 この店のミーン・コロンブは、粒のマスタード・シード、クミン・シード、フェヌグリーク、フェンネル・シードが使われ、実に深い味わい。
 魚はメカジキか。脂がのってウマい。
 ココナッツはミルクではなく、白い果肉(ココナッツ・ファイン)が使われている。
 
 通常のフィッシュ・カレーよりも酸味と辛味が強調された仕上げが、実に私好みである。

 白いご飯はもちろん、チャパティやローティで食べてもオツなおいしさだ。

 インドレストランでおいしい魚カレーに出会った事のないという方は、ぜひ一度お試しいただきたい。
 ジャスト一人前のハーフプレートに入って945円。

《このブログを書いているときのBGM》
エルビン・ビショップ『ジューク・ジョイント・ジャンプ』(1975年)。全編ドファンキーなブルースが実に心地よい。ボーカルに、後、スターシップに行くミッキー・トーマス在籍。 

3月某日

 タンドゥーリ・バーベキューのミックスプレートをたいらげた後、南インドの軽食である「ティファン」の代表として「マサラ・ドーサ」を10人で2つオーダー。

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 これは他の日に頼んだものの写真。この日はひとつのドーサを、あらかじめ小さくひとり分ずつにカットしてから、テーブルに出していただいた。

 マサラドーサの後はいよいよカレー・タイム。

 アジャンタではカレーに合わせる主食も充実している。
 この日はパンとして、ナーンのほか、チャパティ(全粒粉と水、塩だけのシンプルな生地を鉄板で焼いたインドで最もポピュラーなパン)、ローティ(全粒粉の生地をタンドゥールで焼く厚手のチャパティ)を用意。
 さらにご飯ものとして「ダヒ・ライス」(ヨーグルトとご飯のミックス。カード・ライスなどともいう)もオーダーした。

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 これがチャパティ。

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 他店のだが、ローティというのはこんな感じ。

 カレーは4種類をオーダー。

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 これは私の大好物である「砂肝のマサラ」。参加者の皆さんからも、これを楽しみにしていたという声が少なからずあった。
 砂肝は軟らかくなるまで煮込んである。合わせるグレービーはタマネギのみじん切り、トマトをベースにした南インドのマサラ・グレービー。うまみがギュッと濃縮され、スパイシーで濃厚なうまさ、しかもあっさりとしている。
 東京のインドレストランで出されるカレーの中で最も好きなもののひとつだ。

 他のカレーは次回にご紹介。
 つづく。

《このブログを書いているときのBGM》
タジ・マハール『ジャイアント・ステップ』。おかしな名前だが、60年代から活躍する、黒人ミュージシャンだ。ブルースをベースにカリプソなどまで巻き込んだディープな音楽性を誇る。
1970年頃のこの作品では、マイ・フェイバリットなジェシ・エド・デイヴィスのギターを従え、泥臭いルーツ・ロックが大爆発。

 

3月27日(木)

インドの自動車メーカー「タタ」が「ジャグワー(ジャガー)」と「ランドローバー」を買収だそうだ。


ちなみにタタ・モータースとタージ・ホテルは同じ財閥系企業である。

あのイギリスの名車がインド・ブランドになるとは。
時代は確実に動いている。

3月某日

 麹町の老舗インドレストラン「アジャンタ」で多士済々な顔ぶれによる食事会。

 料理のチョイスは私。

 インドのキングフィッシャー・ビール、インドのワイン、塩味のラッシー、サクラ・ラッシーなどのドリンクとともに、まずはスターター。

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 南インドの軽食、ワダ(1050円)。ウラド・ダール(日本ではモヤシになる黒マッペ豆の挽き割り)を2時間ほど浸水させてからミキサーにかけた生地をドーナツ風に揚げたもの。
「あれっ、山芋入っていませんか?」
 という質問が思わず複数の方からあった。それくらいに滑らかで軽い仕上がりということだ。

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 ワダには南インドのみそ汁、トゥール・ダールと野菜のカレー、サンバルが添えられる。

 さらにはココナッツ・トマト・チリ・チャトニも。
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 続いて、北インドを代表するスターターとして「タンドゥーリ・ミックス」をふたりで一皿オーダー(4200円)。かなりガッツリな展開である。
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「タンドゥーリ・チキン」が1ピース。
 カシューナッツとヨーグルトのペーストにカルダモンやホワイトペパーを合わせたマサラに骨無しチキンをマリネしてから焼き上げた「チキン・ティッカ」、ヨーグルト、ターメリック、カイエン・ペパー、ガラム・マサラなどにメカジキを漬けた「フィッシュ・ティッカ」、チリを控えたマサラの「シュリンプ・ティッカ」がそれぞれ2ピース。
 ラム挽き肉にガラム・マサラなどをミックスしたものを鉄の棒(シーク)にキリタンポのように巻きつけて焼く「シーク・カバーブ」、同じくチキンのスパイス仕立て挽き肉を焼いた「シーク・カバーブ・ムルギー」が各1本。
 さらにタンドゥーリ・アチャール(タンドゥール料理用の野菜サラダ)、ミントのチャトニ、ナーンもつく。

 すべてのタンドゥーリ・アイテムの味つけがひとつとして同じではなく、バラエティに富んでいる。これは私が修業していた時代から続くアジャンタの伝統である。

 アジャンタは南インド料理が有名だが、実は昔からタンドゥーリ料理とナーンなどのパン類のおいしさと種類の豊富さにも定評がある。

 ここまでで既に満腹気味だという声も聞こえた。

 が、これだけでは終わらない。
 いよいよ、この後がカレーの部である。
 つづく。

《このブログを書いているときのBGM》
ミシェル・ポルナレフのベスト。特に「愛の休日」が好きだ。

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