カレー&スパイス伝道師ブログ 2

インド&スパイス料理家、渡辺玲のブログ。2019年9月4日、ヤフーブログから移行。

2020年06月

かつて、レコード会社でディレクター職にあった25歳の私は、都内の書店で『ブルータス』誌113号(1985年6月15日号)の「マハラジャ夢現/インド南北料理旅」という特集に偶然出会った。
見たことのないおいしそうなカレーの数々、インドならではの活気あふれる食風景。それらを活写した美しい写真、現地取材でないと絶対に醸し出せないであろうライブ感にあふれた文章の妙味。それらが相まって、バブル期とはいえ、何ともぜいたくな特集に仕上がっていて、私は圧倒され、魅了された。
翌年、私は勤めていたレコード会社を辞め、初の海外旅行に渡印。カレー三昧の日々を終え、帰国後そのままインド料理の世界に入った。

そう。
『ブルータス』誌113号は、私の人生においてたいへん重要な役割を果たしてくれたのだ。その特集号を編集長として創った石川次郎さんに縁あって初めてお会いしたとき(全編インド取材によるテレビ番組『亜細亜見聞録』2007年、BS朝日の収録でインドのデリーに滞在中)、このことに関して勝手に盛り上がった私がお礼を申し上げたら、たいそう喜んでいただいたのもうれしかった。

brutus 113 1985 615 cover


そんな具合なので『ブルータス』誌がインド料理やカレーを取り上げると聞くと、自分が関わる関わらないに関係なく、つい力が入ってしまう。

今回はどうか。
「混ぜるカレー」の魅力をメインにした一冊だそうだが、私にいわせると、歴史や伝統、インドや日本の現状など、関連する事項を正しく、わかりやすく、そして何よりおもしろく語ろうとすると相当ハードルが高い。本文を読む前に目次に書かれたメンツのラインナップを観て危惧したが、予想通り。

各店の紹介記事について、こちらは何もいわない(多くはオーナー、シェフと面識もある)。

私が最もがっかりしたのは、巻頭の「混ぜるカレーを語らせろ!」という座談会。特集全体のトーンや編集サイドの意思や主張が垣間見える点で極めて重要なはずだが、私にはまるでエキサイトする部分がなかった。

例えば、冒頭。
「ナイルレストラン」の「混ぜて、混ぜて」は普及しなかった。
→そんなことはない。右手指でライスとカレーをミックスするインド人作法を日本人向けにアレンジしたのが、あの「よく混ぜてね」式の根本思想として息づいていたはず。
現在、日本のインドレストランはもちろん、ココイチやインデアンカレーなどでも観察してみると、カレーとライスを適宜スプーンやフォークでよくミックスしながら口に運ぶ人は案外多い。
ナイルさんからの直接的な影響とはいいがたいものの「カレーとライス」を混ぜ合わせつつ楽しむカレーファンは確実に増えていると、私は考えるのだが、いかがだろう。

潮目が変わったのは、2003年にダバインディアができたあたり?
→文末が疑問形なのでギリギリセーフだが、内容的には実質間違いだと5思う。なるほど2003年同店がオープンしたが、当初は鳴かず飛ばずだったはず。オープン前、すでにそれぞれ北インドの繁盛店を都内で切り盛りしていた同業のインド人オーナー複数が声を揃えて「東京駅の裏側では、絶対インドレストランははやらない。早晩つぶれるのがオチだ」。
実際、3年ほどは厳しい状況が続いた。が、何とか持ちこたえ、ついに起死回生の満塁ホームランをかっ飛ばす。
中でも停滞を打破する大きなきっかけとなったのは、主に都内近郊各地に点在した南インドレストランの地道な努力だけではなく、日本を代表するグルメ雑誌『ダンチュウdancyu』誌2006年7月号の発売が大きかった。
私によるワイドでディープなチェンナイ現地取材をメインに、ほぼ丸ごと1冊「南インド料理」を全面フィーチュア。
やはり2003年に初版を刊行し、徹底的に南インド料理を取り上げた拙著『カレーな薬膳』(晶文社刊)も当時ジワリジワリと売れており、それまで料理や食関連の雑誌メディアがどこも取り上げなかった「南インド料理」を、メジャーな食雑誌であるダンチュウdancyuがピックアップすることで、一挙に火がついた。潮目が変わったのは、確実にダンチュウの南インド料理特集号が出た2006年だと思う。

ほかにも、「説明書きはエリック・サウスが最初」とあるが、そもそも、私自身が今から20年ほど前の2001年前後、JR西荻窪駅近くでシェフをしていた店でミールスを出す際すでに作っていた。私のミールスは予約制だったが、ベジ、ノンベジとも、本場南インドと同じくすべての料理が食べ放題(サンバルだけ、あるいはラッサムまで程度しかお代わりできない昨今の日本のミールスは、セコイし、ホンモノじゃないと思う)。食材もオーガニックメインだった。おそらく、当時最も先鋭的な日本人によるミールスだったと思う。おかげさまでインターネットがあまり普及しない中、とりわけインド人のお客様が多数来店し、ほめていただいたのはうれしかった。

そのほか、釈然としない箇所はまだまだあるが、キリがないので、ひとつだけ決定的なミスを挙げておく。

ミールスには食べる順番がある。
何でも好きにかき混ぜて食べていいわけではない。

南インド各州、あるいは各コミュニティで多少の違いはあるが、メインカレーが3種なら、ダル、サンバル、ラッサム、2種類ならサンバル、ラッサムの順に平らげる。ご飯にヨーグルトを混ぜるのはその後だし、チャパティやプーリなどのパンはご飯より前、レモンライス
やトマトライスも白いご飯より先に食べる。

ほかにもルールがあるが、ともあれ、ミールスは自分の好きにやうればいいというものでない。したがって、本座談会における会話の多くは意味がないともいえる。

ちなみに、これらはミールスの食べる順番についての参考例
https://www.youtube.com/watch?v=1x64X5Vxz5c

https://www.youtube.com/watch?v=Ncbsj6lN-P0

インド人の食べ方、インドでの食べ方はものすごく自由だった。そういう意見もあるだろう。だが、おそらく、何かを見落としていたり、事実誤認しているケースをまず考えるべきだ。また、例えば、まかないのとき、自由なやり方で食べても、例えば婚礼や新築祝いの席で供されるミールスに好き勝手なアプローチをするかといえば、まずしないはず。

スパイスカレーやスリランカカレーは別のジャンルなので食べ方もまた別だが(大阪で「口癖はカレー」を主宰する三嶋さんのロッダ・グループに関するコメントはよかった)、少なくとも南インドのミールスにはおおまかなルールがあるはず。もう少しこの点で識者の意見等、リサーチすべきだったのではなかろうか。

このブログを書いているときのBGM》 
THE STOOGES『FUN HOUSE』(1970年)
 セカンドアルバム。個人的に捨て曲無しの最高傑作の1つ。ロン・アシュトンのギターもイイ。
https://www.youtube.com/watch?v=1OedEgzDl_I 

★「サザンスパイス」新公式サイトはコチラ

★個人サイト『誰も知らないインドカレー』から「サザンスパイス」レッスンスケジュールや参加申込み可能!





★アジアン料理ユニット『ヤミーズディッシュ』のブログ
https://yummysdish.exblog.jp

少し前、ごく短い記事を書いてアップしたが、それを書いている間でも、PCが青息吐息でフリーズしかかったり、画面が白く薄らいで「応答なし」が長く続いたり。特にダメなのが「インデックス処理(再構築)」を行っているとき。遅いし、重いし、そういうときに限って、過去のレシピを大至急アーカイブからピックアップしなくてはならなかったりで、まあ、なかなかイラつかせてくれるのだ。

 そんな中、「サザンスパイス」6月のスケジュールをアップした。
ss chicken kasa 200101  2

 

















 19と26日に登場予定。ベンガルのチキン・カレー「チキン・カーサ(コーシャ、カーシャ)」。本場でも、レシピ、味わいともいろいろあるようだが、私のはカルカッタ(現在のコルカタ)の裏町、ちょうど有名な「ニューマーケット」から入り組んだ細い路地に佇む庶民派イスラームレストランで供される、そんな風情の一品だ。


ss ginger curry 200308

























 こちらは17日にレッスンする「南インドのジンジャー・チキン」。ヨーグルトでマリネするなど、北インドぽさもありつつ、食べてみればしっかり南インド。ちょっとした風邪や疲労など一発で退散しそうなショウガの量にも圧倒される。

 今月は、ここ一、二年ぐらいの中から人気や反響の大きかったアイテムも再録した。来月も続ける予定だが、ほかにも気になるアイテムのある方、ぜひメールでリクエストいただきたい。

このブログを書いているときのBGM》 
ウォッカ・コリンズ『TOKYO   NEW YORK』(1972年)
 新型コロナで亡くなったアラン・メリルさんは、1951年2月19日生まれ。偶然にも、私も2月19日が誕生日。ご冥福を深く深くお祈りせずにはいられない。
https://www.youtube.com/watch?v=zSNonktvHPw
 グラムでストーンズ。カッコよかった。

★「サザンスパイス」新公式サイトはコチラ

★個人サイト『誰も知らないインドカレー』から「サザンスパイス」レッスンスケジュールや参加申込み可能!





★アジアン料理ユニット『ヤミーズディッシュ』のブログ
https://yummysdish.exblog.jp

クッキングスタジオ「サザンスパイス」は5月7日~31日、休業しました。


このところ、書き上げてアップ寸前のブログ記事が2回消滅(復元機能あるはずなのに、それも真っ白)。
そんなことではいけないのですが、すっかり、ブログ更新の気力が失せてしまいました。

サザンスパイス、6月から料理教室再開。
スケジュールについて、次のブログで書きます。
ちなみにスケジュール自体、すでにアップしています。

以上
よろしくお願いいたします。 

クッキングスタジオ「サザンスパイス」
渡辺玲

↑このページのトップヘ